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健康で効率的な最低限度の生活

社内失業、ミニマリズム、スポーツ

「会社ではトイレで、自分を責めて泣いてました」社内失業しているKさんに話を聞いた

インタビュー 社内失業

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現代は、新卒や新人であっても“即戦力”であることを求められる時代。上司もじっくり育てる余裕がないので、つい部下の自発性にまかせるあまり“放置”に至ってしまうことも多いようだ。新潟県に住むKさん(21歳・女性)は、上司から自発性を求められるあまり、既存の業務を奪われ、社内失業してしまった。
「何を提案しても『うーん、それは今はやらなくていいんだよね』ってスルーされちゃうんですよね。でも、また次の日には『君は何がしたいの?』とか『他にないの? 提案して』って言われちゃう。もう無限ループ状態ですよ」

彼女は、どのような経緯で上司から仕事を奪われて行ったのか。詳しく見ていこう。

Kさんは、2007年4月、2年制の専門学校に入学した。
「本気になったら!』なんて宣伝文句で売り出してる学校です。私はビジネス科っていう、事務職に必要な資格を取るためのコースに入って、簿記3級の資格を取りました。あとはエクセル・ワードのパソコンスキル、一般常識、マナー、著作権だとか、広く浅く勉強しました。
2年生の夏前、仲の良い先生が、たまたま今働いてる会社の社長の知り合いで、インターンに行ってみないかと紹介されたんです。
その会社は、情報管理システムの開発、保守やメンテナンスを行うIT企業。インターンシップに参加した当時の社員数は、社長含めて6人。40代の社長が唯一の営業で、他の社員はみんなプログラマ。イヤホンで音楽を聞きながら、ひたすらコードを書いてますから、職場はすごく静かでしたね。まだ創業5年ぐらいの若い企業でした。
インターンシップの内容は、社長が普段やっている事務作業のお手伝い、ということだったので社長の下に付いたんです。でも、社長はいつも忙しそうにしてましたから、基本的には放置状態でした。インターネットが出来るPCも与えられてなかったので、ほんとに暇でしたね。だからほとんどの時間、資格試験のテキストを読んでました。『私はこんな状態で大丈夫なのかな。もしかして放置されすぎなんじゃないか』っていう不安は、その頃からありました。『何か仕事ありませんか?』って聞いてはみるんですけど、『忙しいから今は教えられない』って拒否されちゃうんですよね」

Kさんがインターンシップに参加した企業は、社歴も浅いということで、インターン生受け入れの体制が整っていなかったのだろう。実際、放置されてしまったKさんは不安を感じ、学校の先生に相談までしたという。

「あの会社でやっていく自信ない……って言ってみたんです。何もさせてくれないことへの不満もあって、この会社に就職することはないだろうなっていうのもあったし、それに社長からの評価も低いだろうから入社は断られるだろうなって。そうしたら先生が『でも会社側の評価は、インターンを受けた学生の中でも一番高かったんだよ』って。正直、意外すぎてビックリしましたよ。どこを見てそう思ったんだろう……分からなかった。あとで社長に聞いたら、『Kさんは積極的に仕事を探そうとしてくれたし、分からないところはちゃんと質問してくれたから評価したんだよ』とお褒めの言葉をいただいたんですけど、でもこちらからすると、あまりに暇なので『何か仕事ないですか?』って聞いてただけなんですよね……」

Kさんは会社から高い評価を受けたことで、あれこれ悩んだが入社を決める。仕事内容は、インターンシップに引き続き「事務」ということだった。しかし、入社前に感じていた「放置されすぎじゃないか」という不安は、入社後、さらに強固なものとなる。

「入社初日、会社に行くと社長に言われたんです。『Kさんは何がしたい?』って。『どんなお仕事があるんですか?』って聞いたんです。そうしたら、
『なんでもあるよ。望むものならなんでも』
『事務のことですよね?』
『事務以外のことでもいい。なんでもいい』
って言われて。私、言葉に詰まってしまって……。
何も思いつかなかったので、『とりあえずパソコンの設定と、机の片付けをします』って言いました」

“望むものならなんでもしていい”とは、会社の仕組みも、具体的な仕事内容も知らずに入社してきた新卒の学生にたいするいきなりの質問としては、ずいぶん大雑把だと思わないだろうか。

「でも、翌日からも、行くたびに聞かれるんですよ。『うちの会社で何かやりたいことあるんだよね?』『何がしたいのか話してよ』って。全然、分からないんです。答えられないんですよね。とりあえずインターンシップのときにやったことのある業務や、その他思いつく限りの作業を提案しました。でも、
『溜まった領収書の整理を……』
『それ、昨日中に終わらせちゃったんだよね』
『会計ソフトに入力する作業は……』
『今はない』
『……それなら、通帳の記帳とか……』
『それって、誰にでもできるよね』
『そうですね……』
うまく提案できないと、社長は自分の仕事に戻ってしまう。その気まずい空気に耐えられなくて。辛くて……。

その質問をされるのは、たいてい二人きりのときなんですけど、職場で言われることもありました。他の方はみなさん仕事してる、シーンとしてる中でですよ。ドキドキしてしまって……私が持ってるスキルで何ができるんだろうかって思いつつ、いくつか提案したんですけど、『うーん、それは今はやらなくていいんだけどな……他にないの?』って言われる。もう無限ループ状態ですよ。
そんなことが続いて、もう会社に行くのが嫌で嫌で……。ストレスから大量のあごニキビが発生して、メイクでも隠せないほどに悪化してしまうし……。『私の提案は、社長が望んでいる答えではない?』『反応を見て試している?』『そもそも私がやりたいことって何?』と延々悩んでしまって。もともとネガティブな性格ですが、余計に自分自身を責めては落ち込むことの繰り返しでした。明確な日標を持たないまま入社したことも原因だよなって、自己嫌悪ですよ。
会社ではトイレに駆けこんで、耐えきれずに一人で『明確な目標がないままダラダラ生きてきたつけが、いまきたんだな』って自分を責めて泣いてました」

結局、Kさんは、そんな調子で提案がスルーされてしまうため、やることがなくなってしまった。

「暇で暇で、毎日ネット見てましたね。そうしたら、社長が頻繁に私の後ろに立って、じーっと画面を見てくるようになりました。『何か……?』って聞いたら、『今なにしてるの? 何か分からないことでもあるの?』って聞いてくる。そういうわけじゃないです、やることがないだけです、って言いたいけど言えないですよね。1時間に、何回も来たりしますから、『うわっ、またきた!』って思ってた。
私だけじゃなくて、他の社員にも『君はうちで何がしたいの?』って聞いてるみたいなんですね。そういうときなんて答えてるの、って先輩に聞いたら『別の話題にして話をそらす』って言ってました」

社長に悪意はなかったのだろう。むしろ、「君はこの会社で何がしたいのか考えなさい」と課題を示して、与えられる仕事だけでなく、自発的に仕事を考えることの大切さを説こうとしていたのかもしれない。
しかし、ちょっとしたアドバイスさえせず、与える予定だった事務の仕事さえ渡さないという、行き過ぎた行動に出た結果が、社内失業だったのだ。

「次第に、だんだんネタ切れになって、提案することが何にもなくなっちゃったんです。だから会社の同僚に、プログラミング言語を教えてもらおうと思ったんですよ。プログラマの仕事には興味ないけど、このまま仕事のない事務員としているよりは、多少なりとも理解できたほうが、少しは会社の役に立てるんじゃないか、と思って。PHPっていう言語を、テキストを借りてぱらぱら見てたんです。そうしたら社長に『なんで君がプログラミングの勉強なんてしてるの? 君がやってもしょうがないでしょ』ってあっさり言われちゃった。
そのときは逆ギレしそうになって、『なんなんだよ!! じゃあなにすればいいの!?』って危うく言いそうになったんですけど、我慢して『そうですよね』って答えました。その時は一番迷走してましたね。社長が何を求めてるのか、全然分からなくて……。
今の唯一の救いは、ネットを使えることですね。社内でも、けっこうツイッターやってたり、ゲームやってたりする人がいますから。もちろん大っぴらにはマズイんですけどね……。
暇なときは、今後のことを考えます。惨めなんですよね……なんか、ただもう惨め。他の社員が仕事と向き合ってるときに、自分は何をやってるんだろうって。ネットで似たような境遇の方を探すんですよ。その人はどう暇な状態を切り抜けてるのかなと、参考にしたくて。『仕事』スペース『暇』って入力して、検索サイトで調べるんです。ツイッターで「社内ニート」で検索するとズワーーーっと出てくるんですよね。その方たちを、勝手にリストにして見て、『みんな、けっこう大変なんだ』って勇気をもらってた」

企業が求める「即戦力」って、一体なんなんなのだろう?

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