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健康で効率的な最低限度の生活

社内失業、ミニマリズム、スポーツ

「気づいたら一日、エレベーターで上に下に行ってるだけ、ということもありました」社内失業しているTさんに話を聞いた

インタビュー 社内失業

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「私、要領が悪いんです。社内失業しちゃったのは、仕事ができなかったからだと思う」
と話すのは、Tさん(26歳・女性)。黒い髪が印象的な、どちらかと言えばおっとりとした女性だ。都内のIT系デザインの会社に営業職として3年間籍を置き、先日退職届を出したばかりという。

「次に何の仕事をしたらいいか……。今は『仕事の内容が自分に合わなかったから、社内失業してしまったんだ』って思ってます。でも新しく就職したところでも、前と同じような状況になってしまったら…。私は世の中の役に立てない人間なんじゃないか。そういう恐怖心がすごくあって、まだ次の就職先を決められずにいます」

Tさんが新卒で入社したWEBデザイン会社の社員は60名ほど。営業職としての配属になった。

「入社してから、3ヶ月間の研修期間がありました。その時に営業会議に出席するのを忘れて、お弁当食べてたことがあったんですよ。大失敗ですよね。すごい怒られました。私、なんでも要領が悪いんです。ちょっとした作業がすごく遅くて、ヘタクソで怒られたり…。研修中にそういう小さな失敗を何度かしちゃったんです。
それで、目をつけられたんだと思います。研修が終わって、営業部に本配属になりました。40代の課長の下に付くことになったんです」

その課長というのが、社内での評判が悪い“問題課長”だったのである。

「女子社員からはとにかく『キモい』って嫌われてましたね。なんていうか自信家で、オタクみたいな感じだからですかね。髪も長くてサラサラしてて、とにかく個性的な人。社内では煙たがられてました。
課長の下に配属される前から、色々な悪い噂を聞かされるんですよ。『あの人は仕事してない』とか『カラ残業してる』とか…。ある時、女の先輩とカラオケに行ったんですけど『アンタ、あの課長の下につけられたってことは、どういうことか分かってるんでしょうね?会社に期待されてないってことだからね』って言われたりして……」

「付き合ってみると、実際はそこまで苦手なタイプというわけではなかったんですけど」とTさんは前置きして話し始めたが、その課長が原因となり、Tさんは社内失業してしまう。

「うちの会社って、付く先輩が決まった時点で、その新入社員が担当する仕事が大体決まるんです。営業に行くといっても、ガンガン新規開拓をするわけじゃありません。仕事の発注は、大体いつも決まったお客さんから決まった量がくるんですね。だから付いた先輩がどれだけお客さんを抱えてるか、どれだけ自分に引継ぎしてくれるかで、自分の仕事量とか、売上がだいたい決まっちゃう」

このように、顧客がほぼ確立しており、定期的に同じお客さんを訪問し仕事を受注する営業形態を、一般的に「ルート営業」と呼ぶ。既存の顧客との信頼関係の構築や、競合に奪われないよう現状保持することが主な仕事だ。Tさんが配属された部署は、このルート営業を主な業務としていた。
ところが…。

「私が付いた課長が、お客さんをほぼ持っていない人だったんですよ。すごく仲良くしている広告代理店のお客さんが一人だけいて、その人のところに課長と私の二人で、月曜日から金曜日まで毎日行ってるような状態でした。汐留にある大きな広告代理店なんですけど。
大きな案件を抱えていてすごく忙しいお客さんだったので、その方が忙しい時は挨拶だけして帰ります。相手に余裕があって話をしてくれる時は、煙草スペースで2~3時間お喋りしてましたね。
仕事の話もしてましたけど、なんでもない雑談が多かったですね。アニメの話とか、音楽の話とか。課長とお客さんのふたりで話していて。私はよくわからなくて、隅っこの方で小さくなってました。
そんな感じだから、営業もすぐ終わって、午後には会社に戻ります。
でも、会社に帰ってもデスクに座ってられない。他の営業さんとか、同期は営業で外に出ちゃっているので、職場にいるのは部長と、ひまな課長と私だけ。だからすごく目立つんですよ。30分も座ってると『なんでお前座ってるんだよ。外行けよ。営業なんだから』って部長からプレッシャーかけられるんです。
しかも部長が来ると、課長はぴゅーんとタバコ吸いに喫煙所に行っちゃう。私も『こんな状態で大丈夫なのかな』って不安でしたし、部長からはあれこれ言われるし、嫌でした。でも課長がどこにも行かないから、下についてる私も一緒に座ってるしかない。社内はシーンと音が聞こえるぐらい静かで、気まずかったです」

既存の顧客を回ることで売上をあげるルート営業にもかかわらず、顧客が一人しかいない。そんな状態ではTさんに引き継ぐ仕事などあろうはずもない。この顧客引継が全くなかったという点、そしてそれに伴って営業としての教育を受けられなかったことが、Tさんが社内失業してしまった原因と考えられる。

「一番つらかったのは、毎朝の朝礼ですね。どこ行ったとか、営業の成果を発表しなきゃいけないんですけど、なんせ発表するものが何もないですから…。最初の頃は課長も庇ってくれたんですけど、どんどん冷たくなっていって助けてくれなくなりました。部長からは毎日のように『営業は仕事をとってきてなんぼなんだからな。サボってんじゃねーのか?』って言われたり…。辛かったですね」

Tさんは「飛び込み営業もやるように」と会社から命令を受けたという。しかし、営業としてほとんど教育されてこなかったTさんは、結局は受注をうまく取ることができなかった。

「そのうち回るところもなくなって、でも会社には戻れないし…。人目につかない公園のベンチに座ってぼーっとしたり、あとは本屋さんで立ち読みするようになりました。
そんな状態だから、稼ぐ人は月1億円とか稼ぐんですけど、私は、先輩と60万円の仕事を二人で分けあったり、そんな状態になっちゃった。
同じように新規営業をやってる後輩に「どんなふうに営業してる?お客さんとどんな話してるの?」って聞いてみたりもしました。でもやっぱりなかなかうまくいかなくて。続けて会ってくれるようなお客さんも次第にできてはいきましたけど、やっぱり契約にまではいたらなくて……。
先輩に『仕事できないくせに会社に来て給料もらってる奴を見てるとムカつくんだよ』と面と向かって言われたときは特にショックでした……」

Tさんは頑張りもむなしく、徐々に追い詰められていく。

「会社にいる暇な時間を少しでも減らすために、なるべく移動時間で時間を稼ぐんです。汐留のビルってすっごく広いので、歩いたり、エレベーターで上に下に行ってるだけで、けっこう時間が稼げるんですよね。気づいたら一日そうやってたこともありました。
あとは…どうしても回るところがなくて、でも会社に戻れない時は、適当に入ったトイレの個室で本を読んでました。そんな時に限って、なぜか戦争ものを読みたくなって…。「魚雷艇学生」っていう、特攻隊として沖縄に行く話なんですけど。明日自分は死ぬかもしれない、っていう切実な話なんですが、そのギリギリの心境にすごく共感したりしてました。
(著者注:参考↓)

魚雷艇学生 (新潮文庫)

魚雷艇学生 (新潮文庫)


暇なのに心はすごく追い詰められてて、『駄目だ駄目だ』って毎日思ってました。3年在職していたうちの後半の半分は、毎日そんな感じでした。
職場でも、嫌なのにじっと我慢してるだけで何も成長してない自分がいました。我慢し続けようと思えばできるかもしれないですけど、このまま年をとって、どうするんだろう。このままじゃ困る、って思ってました。毎日何時間も会社にいるのに、パソコンのスキルが上がってるわけでもないですし、何かができるようになるわけでもありません。
私は、人より飲み込みが遅いと思います。だけど時間をかければ、仕事も出来るようになるんじゃないかな、って思ってたんだと思います。お客さんとも時間をかければ信頼関係を作れるはずだって。
だけど毎日追い詰められて、怒鳴られて。もうどうしていいかわからなくて、暇だけど、気持ちばっかりが焦ってました。どす黒い気持ちになって、mixiの日記もどんどん荒れていたし。そんな時に先輩から預かった仕事で、大きなミスをしたんですよ。期待に答えられない自分が情けなくて、あまりにショックで翌日に辞表を出しました。『もう少しがんばってみないか』『仕事ができなくてもいいからいれば』って声をかけてくれる人もいました。それで一旦取り下げたんですけど、でも結局、辞めました」

Tさんが社内失業してしまったのは、Tさんの責任だろうか?それとも会社や上司の責任?あなたはどう思っただろうか?

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