健康で効率的な最低限度の生活

社内失業、スポーツと健康

「上司から『お前がそんなことしても無駄だ。何の影響もないよ』って言われて…」社内失業しているSさんに話を聞いた

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Sさん(男性・27歳)は背が高く、スラリとしていてスーツもパリっと着こなす、休日にはフットサルもやるという爽やかなスポーツマンだ。営業先で出会っていたら、とても社内失業状態だとは思わないだろう。
新卒で一部上場のAV機器メーカーに入社。当時は営業職として忙しく働いていたSさん。メーカー同士がしのぎを削る新製品発表会や、業界関係者向けの製品発表会での自社製品のプレゼンテーション、及び会場での営業活動を主に担当していたという。

「それこそ全国の製品発表会に足を運びました。出張は大阪が多かったですけど、九州で夏に大きな展示会があるので、そこには毎年行っていましたね。日本全国、北から南まで。一人で出向いて発表することもありました。
しゃべる内容、お客さんに見せる資料は自分で考えて、パソコンで作るんです。上長に仕事の仕方は任されていましたし、やりがいもありました。給料は安かったですけど、これで色々と覚えられたらいいな、というのがありましたね。
残業は、多い時は月に60時間、70時間ぐらいでしたね。10時過ぎに会社を出ることが多かったです。営業部のみんなと仲が良かったので、そのまま飲みに行って、2000円ぐらい払ってタクシーで帰ったり、なんてことはよくありましたよ。本当に充実してましたね。成長してるっていう実感もあったし、業界、業務に関する勉強も自発的にしてました。2008年の中頃までは充実してたんです。本当にびっくりしましたよ。経験も順調に積んでいると思っていたのに、まさか工場に行け、ネジを回せって言われるなんて……」

須藤さんが入社して、おおよそ3年が経った2008年の夏。「このころから潮目が変わった」という。

「私の上長として社員が転職してきました。自分の父親ぐらいの50歳ぐらいの方です。その人、前は世界的にも有名な総合家電メーカーに勤めていたらしいんですが、『君には技術的な知識がない』『文系なのになんでここにいるの?』って散々言われるようになりましたね。その頃から私の立場も悪くなっていったと思います」

須藤さんはある日、その上長から呼び出しを受けることになる。

「私の前にも何人か呼ばれていたので、嫌な予感はしてたんですよ。私も「ちょっと来てー」って呼ばれて、会議室に入ると、その上長と、うちの事業部の担当役員が二人で座ってる。私は一人だから、2対1ですよね。
で、『来年の4月から三重に行ってもらいます』って。三重に自社工場があるんですよ。近隣にも千葉とか茨城とかにあるんですけど、よりによって三重の工場か、と思って。
その場で『無理ですね』と言って部屋を出ました。『よく考えろ』って言われたんですけど、その夜にパソコンで辞表を書いてて、判子押して、翌日の夕方に上長に出しました。
工場に行け、っていうことは、製造ラインの現場に行けってことなんですよ。つまり作業員の外人さんたちに混じってネジを回したりする仕事。確かに製品の勉強にはなるかもしれないけど、でも今までの仕事は何だったんだろう。全く評価されてないのかって思って、耐えられなかった。それなら転職して、いままでの経験を活かしたいって思ったんです。
辞表を出した時も、『あーわかったー』って、あっさりとしたもんでした。上からも人を減らせ、人を切れって言われてたみたいです。だから上司は辞表を受理するつもりだったんじゃないかな」

晴天の霹靂とはこのことだろう。トヨタが2010年卒の新入社員900名を、工場の組立ラインに配置するというニュースを覚えている方もいるだろうか。コスト削減のために非正規雇用者を雇わずに新入社員を配置したものと言われているが、須藤さんの会社にも同じ発想があったのかもしれない。
もちろん会社が社員を現職と全く関係のない部署に異動させることは良くある話だろう。しかし「君には技術的な知識がない」「文系なのになんでここにいるの?」など、以前から否定的なことを言われていた須藤さんが、異動をポジティブなものとして受け入れるのは難しかったのではないだろうか。例え自社の業績が予断を許さない状態だと理解していたとしても、である。

「でもしばらくして、たまたま人事部に空きができたとかで、打診があったんですよ。『辞めるくらいならうちの部署に来ないか』って。もし将来転職することになっても、『ネジ回してました』っていうよりは『人事やってました』っていう方が格好がつくのかな。知り合いにも人事部の奴っていないので、スキルアップとしては面白いのかな、って思って。結局辞めないことにしたんです」

Sさんはその後人事部へと異動となり、新卒と中途、両方の採用担当となる。現在は、年間に700人〜800人ほどの採用に関わるというSさん。しかし…。

「仕事内容は面接の日時連絡を電話でやり取りするだけ。『二次面接に来て下さい。何日の何時に来て下さい』っていう連絡ですね。
通過させるかどうか、採用するかどうか、っていうのは上が見ます。私は人事としてはぺーぺーですから、何の権限もないです。それはいいんですよ。それでも、自分なりに何かできるんじゃないかと思って、応募者の資料に、私なりの印象や評価を添付して上司に渡してたんですよ。そしたら上司から『お前がそんなことしても無駄だ。採用に何の影響もないよ』って言われて。そんな言い方ないだろ、って思いました。そんなことがあって、今は書類を取次ぐだけですね」

異動後、業務量が極端に少なくなってしまったSさんは、書類整理をしているフリ、エクセルの表でデータをまとめているフリなどをして、業務のない暇な時間をしのいでいるという。

「業務量は、その気になってちゃんと仕事すれば、すぐに終わっちゃうぐらい。本当にわずかしかないんです。
だから、あえてゆーっくり仕事してみたりとか……。RSSリーダーにブログとか、ニュースを登録して読んだりだとか。mixiは、画面の配色が派手でバレやすいので見てません(著者注:当時はまだtwitterやfacebookが主流じゃなかったんですね)。そういえば、2ちゃんねるをエクセル風に表示できるビューアーがあるんですよ。これはすごい役に立ちます。仕事してるフリにはもってこいですね。

あとは、さも『データ入力中』に見えるエクセルシートがありまして、これをいつでも開ける状態にしておきます。上長が近づいてきたりすると、パっと開くわけですね。そうすると仕事してるように見える。
そんなことをしてますが、結局ヒマなので、時間は主に勉強時間に充ててます。人事についてだとか、あとは人事・労務関連のニュース、社の商品に関連する技術系のニュースを見たりだとか。この1年でかなり詳しくなりましたよ」

一部総務の業務も請け負うようになったSさん。しかし…。
「郵便物の仕分けをやってます。朝一番と、昼休みが終わったら、会社の玄関に郵便物が届くポストがあるので、取りに行きます。それで、それぞれの部署に仕分けするんです。『これは営業部』『これは経理部』っていう感じですね。慣れないうちは30分ぐらいかかってましたが、今では15分もあれば終わる仕事ですよ。
あと、うちの会社が出す郵便物を郵便局に持っていく仕事がありますね。1日分で、少ない時でも80通ぐらいの封筒があるんですよ。ハスラーってわかります? 郵便物に切手の代わりに、スタンプを押す機械。今の部署に来て、初めて名前を知ったんですけどね。1日1回、そのハスラーを使って、ガッチョン、ガッチョン、ってスタンプを印字していきます。まぁ、短調ですし、気は進みませんよ。30分ぐらいで終わりますし、何も考えなくてもいい。

残業はほとんどしていませんし、基本的には定時上がりですから、就業後に英語の勉強がしたいと思ってTOEICの勉強も始めました。去年の夏ぐらいから始めて、元々350点だったのが10月には530点、今年の3月に受けた時は650点まで上がりました。転職の時に、履歴書に書いてアピールできるものが欲しかったんですよね。もちろんTOEICの点数だけじゃ有利にならないのはわかってますけど、それでも英語ができるアピールにはなるのかなぁと思って。
あんまり他人には相談できないですよね。私も、社内で仕事がない状態なんだって、誰かに言ったことないです。大学の友達なんかにも言いにくい。

今回のインタビューに応じた理由は、楽になりたかった、っていうのもあります。『ああ、悩んでるのは俺だけじゃないんだな』って思いたかった。傷の舐め合いになるのは良くないと思いますけどね。

今って、昔よりは確実に転職しやすくなってますよね。仕事の実績がちゃんとあれば、ちゃんと転職できる。社内失業者の中には、単に仕事をサボってる人ももちろんいると思うけど、本当はやる気ある人だって沢山いると思うんですよね。そういう社内失業がちゃんと理解されて、転職もしやすいような世の中になればいいと思う」

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